2007年09月01日

童話『蛍石の女神』

今日書いた童話をアップしてみようかと。

何であたしが書くと殺伐としてしまうのか(笑)。

ま、ご笑納ください。

 

蛍石の女神

 そびえ立つ岩山の中に、暗く、冷たい洞穴があった。
 洞穴はうっすら光る淡い緑の蛍石で飾られ、一番奥には、薄紅色に光る八面体の蛍石の結晶がひとつ、斜めに傾いで立っている。
 結晶の中には、美しい女神が一人、たゆたっている。
 自分の力のままに、人々を苦しめた罰として、飢えても渇いても死ぬことを許されず、孤独のうちに幽閉されている。
 彼女の望みはただひとつ、死んで全ての苦痛を終わらせること。
「我を殺してくれるなら、どんな望みでも叶えてやろうぞ」
 女神のつぶやきは洞穴を抜け、風に乗り、それを伝え聞いたたくさんの者が、望みを叶えようと、彼女のもとを訪れた。
 あるものは富を、あるものは名声を、あるものは死者の復活を。
 しかしどんな武器も蛍石を突き通すことはできず、ことごとく失敗し、女神の怒りに触れて命を奪われるばかり。
 命失せたむくろは、やがて、うっすら光る蛍石になる。
 かくて彼女の洞穴は淡い緑の蛍石で覆われ、いたずらに月日が重ねられていく。

 ある日、金紅石の剣を携えた男が、蛍石の女神のもとを訪れた。
 女神はいつも通り、来訪者に問い掛ける。
「そなたの望みは何じゃ?」
 男は悲しげな、しかし強い瞳を女神に向け、簡潔に、真摯に願う。
「俺が戦で手にかけた、四千九百九十九人の魂の救済」
 女神は気だるげに男を見やる。
「ならば、その者達の思いの宿りし物を、全員分集めて参れ」
「俺の体には、やつらの末期の血が染み付いている。これでは駄目か?」
「叶えてやれぬことは無いが、我を殺すだけでは、代償が足りぬ。よって、これより千年の間、我に仕えよ。その後我を殺せば、そなたの望み、必ず叶えよう」
「わかった、俺はこれからあんたのしもべた」
 どこまでも気だるげな女神に、男はきっぱりと答えた。

 男が女神のしもべになってからも、やはり望みを叶えようと、たくさんの者が洞穴を訪れた。
 しかし誰も、蛍石の牢獄を突き破ることはできない。
 いらだちのまま、女神はしもべに命じる。
「しもべよ、斬れ」
「仰せのままに」
 しもべは、女神に命じられるまま、失敗した者を金紅石の刀で斬り捨てていった。
 斬り捨てられた者は、淡い黄色の蛍石になる。
 洞穴は淡い緑と黄色に彩られ、女神の目を楽しませた。
 しもべは、蛍石の花園と女神の美しさに、戦で疲れきった心を和ませた。

 女神に仕える日々の中、数年ほど、誰も姿を見せないことがあった。
「これじゃ体がなまっちまう」
 しもべはそう言うと、修練がてら、剣の舞を女神に見せた。
「これは見事。我も何ぞ披露しよう」
 女神は手を打って喜び、剣の舞いの礼に、歌いながら舞いをひとさし舞った。
 しもべはうっとりと女神を見上げ、あらん限りの拍手を送った。
 この日以来、二人は忘れていた笑顔を取り戻し、それからの日々を、和やかに過ごしていったのである。

 九百九十九年が過ぎ去ったある日、しもべは、女神を殺せなかった者をいつも通り始末した。
 しかし、今回はいささか勝手が違っていた。
「おのれ…!」
 断末魔の中、斬られた男は女神のしもべに針を打ち込む。
 しもべの体がぐらりと揺れ、剣が地面に落ちる。
 女神は思わず駆け寄ろうとし、蛍石の牢獄に阻まれ、ただしもべを呼ぶばかり。
「お前に毒を盛ってやった。もう助かるまい」
 そう言って、女神を殺せなかった男は息絶え、蛍石になった。
 女神は、今にも泣き出しそうな顔でしもべを見つめる。
「すまぬ、我に癒しの力は無い。そなたを助けることができぬ」
 しもべは苦く笑うと、女神に腕を差し伸べた。
「約束の年まで、後一年か。足りない分は、俺の命で支払うよ」
 そして剣を取る。
「命尽きる前に、あんたの望みを叶えなきゃな」
 どんどん動かなくなる体を引きずり、しもべは薄紅色の蛍石の前に立つ。
 女神は両腕を広げ、金紅石の剣で貫かれるのを待つ。
 しかし彼は優しく笑うと、剣を捨てた。
「俺の女神、俺はあんたを殺せない」
 しもべは薄紅色の蛍石に両手を押し当てる。
 女神も牢獄の中からしもべの手に自分の手のひらを重ねる。
 すると、しもべの体はすうっと蛍石の中に吸い込まれた。
 驚く女神を胸に抱き、しもべは笑って息絶えた。
 女神は、その強い想いに胸を貫かれた。
 同時に全ての蛍石が星屑のように砕け散り、女神の体は空気に溶け始める。
「しもべよ、そなたは約束を守ったのじゃな」
 女神は泣きながら微笑む。
 千年の長きに渡り自分に仕え、全てをかけて自分を救ってくれたしもべが、心の底からいとしい。
「我も約束を守ろう。そなたの望み通り、浮かばれぬ魂に救済を」
 女神は最後の力を振り絞り、しもべの体に染み付いた四千九百九十九の魂としもべの魂、合わせて五千の魂を虹色の光に変え、それぞれが望む世界に飛ばしてやった。
 彼女は満足げに微笑むと、自分の望み通り、掻き消すように消えていった。

posted by jianxia at 17:15| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
お初です。
このお話はオリジナルなの?!面白かったよ!
こんな才能があったのね〜、見露さん。眩しいばかりだわ!!作品の世界観が鉱石好きに通じているね。
こんなに打ち込めるものがあってうらやましい・・・。
これからも来させてもらいます(^^)/
Posted by 茶慕(ちゃぼ) at 2007年09月04日 16:15
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